シリーズAまでは、CEOの人脈とリファラルでなんとか採用できていた。
でもシリーズBを超えたあたりから、急に採用が回らなくなる——。
これは多くのスタートアップが経験する「採用の壁」です。私はこれまで、シリーズA〜Cのスタートアップの採用を支援してきましたが、このフェーズで苦しむ企業には共通するパターンがあります。
この記事では、なぜシリーズBで採用が難しくなるのかを構造的に整理し、具体的な3つの打ち手を紹介します。
シリーズAまでは「とにかくエンジニアを3人」「営業を2人」といったシンプルな採用でした。
シリーズBになると、事業の拡大に伴い、必要なポジションが急増します。
- バックエンドエンジニア(Go)
- フロントエンドエンジニア(React)
- SRE / インフラエンジニア
- プロダクトマネージャー
- 事業開発 / BizDev
- カスタマーサクセス
- コーポレート(経理・法務)
1人の人事が、これだけのポジションの要件定義・母集団形成・選考管理を同時にこなすのは、物理的に不可能です。
シリーズAでは、CEOが自ら候補者を口説き、ビジョンで人を惹きつけることができました。
しかし、シリーズBでは採用人数が10名を超えてきます。CEOが全候補者と面談するのは現実的ではなくなり、「組織としての採用力」が求められるようになります。
候補者の期待値も変わります。「面白そうなスタートアップ」だけでなく、「組織として成熟しているか」「入社後のキャリアパスは明確か」といった点を見るようになります。
シリーズAまでの採用は、創業メンバーの人脈からのリファラルが大半を占めていることが多いです。
しかし、この鉱脈には限りがあります。シリーズBで10〜20名を採用しようとすると、リファラルだけでは到底足りず、新しいチャネルを開拓する必要が出てきます。
ここでダイレクトリクルーティングやエージェント活用の経験がないと、採用が一気に止まります。
「採用はエージェント任せ」という企業は少なくありません。しかし、エージェント経由の採用には以下のリスクがあります。
- コストが高い:年収の30〜35%が手数料。年収800万円なら1人あたり約250万円
- 自社にノウハウが蓄積されない:いつまでもエージェント頼みから抜け出せない
- 紹介される候補者の質をコントロールしにくい
バランスの良い採用チャネル構成の一例:
| チャネル | 割合目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| ダイレクトリクルーティング | 40% | 高い。コスト効率が良い |
| リファラル | 30% | カルチャーフィットが高い |
| エージェント | 20% | ハイレイヤー・急募向き |
| 自然応募(Wantedly等) | 10% | ブランディング効果あり |
ある支援先では、エージェント依存の状態から1年かけてリファラル・ダイレクト経由の決定割合を70%まで引き上げました。採用コストは大幅に下がり、候補者の質も向上しています。
シリーズBでは、「採用がうまい人がいるから回っている」状態から、「誰がやっても一定の品質が出る仕組み」に移行する必要があります。
具体的に型化すべきポイント:
スカウト - ターゲットの検索条件(職種×経験年数×技術スタック) - スカウト文面のテンプレート(構造は固定、カスタマイズ部分だけ変える) - 送信曜日・時間帯のルール
面接 - 各ステージの評価基準(スキル / カルチャー / ポテンシャル) - 質問リストの標準化 - 面接官トレーニングの実施
候補者コミュニケーション - 各ステージの連絡テンプレート - 選考スピードのSLA(例:書類選考は2営業日以内) - お見送り時のフィードバック方針
これらを一度つくってしまえば、人事が1人増えたとき、あるいは外部のリクルーターを入れたときに、すぐに立ち上がれます。
シリーズBのスタートアップは、限られたリソースで最大の成果を出す必要があります。採用のすべてを社内で完結させることが正解とは限りません。
外部リソースを入れるべきかどうかの判断基準:
- 採用計画に対して人事のリソースが明らかに不足している → 外部リソースの投入を検討
- 特定の職種(エンジニア等)のスカウト返信率が低迷している → 専門性の高い外部リクルーターを活用
- 採用プロセスの改善が後回しになっている → 外部の視点でPDCAを回す
重要なのは、外部リソースを「丸投げ先」にしないことです。
社内の人事チームと外部リクルーターが同じSlackチャンネルに入り、同じ採用会議に出席し、同じKPIを見る。この距離感で動けるパートナーであれば、外部リソースでも社内と同等の成果を出せます。
シリーズBの採用の壁は、ほぼすべてのスタートアップが直面する構造的な課題です。
- チャネルを分散させる:エージェント依存から脱却し、ダイレクト・リファラルを強化する
- 型をつくる:スカウト・面接・コミュニケーションを仕組み化し、属人性を排除する
- 外部リソースを正しく使う:丸投げではなく、チームの一員として動けるパートナーを選ぶ
「壁」は、正しい打ち手を打てば乗り越えられます。大事なのは、壁にぶつかってから慌てるのではなく、シリーズBの調達が決まった時点で採用の準備を始めることです。